競技の世界はいつも華々しい瞬間ばかりではない。時に悩み、ときに挫折も…。
業界第一線での活躍経験のある方々にお話を伺い、人生をかけてバドミントンで挑戦しつづける姿勢・精神はもちろん、挫折や失敗から得たもの、バドミントン業界への問題提起や見解などについても語っていただき、バドミントンの普及発展と新しい未来への可能性を考察していく。
第1回は、審判員、指導者、日本教職員バドミントン連盟の副理事長・競技審判部長(令和5年度時点)など複数の顔でバドミントンと関わっておられる上田敏之さんにインタビューをさせて頂きました。
複数の角度でバドミントンを見てきた上田さんだからこその経験や考えをお聞きします。
上田敏之(うえだ・としゆき)
1959年5月29日生まれ、東京都出身。1999年から2013年まで国際審判員として多くの国際大会で主審、サービスジャッジ、線審を務めたほか、国内でも約30年にわたり審判員・レフェリーとして活動を続け、日本バドミントンの発展を支える。
また、高等学校の教員として埼玉県内の高校を歴任し、高体連専門部委員長として埼玉インターハイ、全国高校選抜大会を開催。バドミントン部の顧問を務めているほか、小平ジュニアバドミントンクラブ(東京)でもコーチを務めている。
公益財団法人日本バドミントン協会公認A級レフェリー、元アジアバドミントン連盟公認国際審判員。日本小学生バドミントン連盟副理事長、日本教職員バドミントン連盟副理事長、東京都小学生バドミントン連盟理事長、埼玉県バドミントン協会指導部普及部(2022年8月時点)
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【中編】国際大会で活躍する日本人選手が多くなって嬉しい
ー審判の立場から感じた日本人選手の印象を教えてください
近頃は世界を舞台に活躍する日本人選手が増えており、数十年前と比べると格段にレベルが上がっている印象を受けます。
私が国際審判として活動し始めた頃は、試合の流れをコントロールするテクニックとして、日本のトップ選手が汗ふきやシャトル交換をゲーム中に要求するのも珍しくありませんでした。
ただし、国際大会の場で汗拭きの要求がとおらなかったときに、リズムを崩して負けてしまう日本人選手を多く見かけたんです。
現在の日本代表選手は多くの海外大会に参加したり、ナショナルチームで集まってトレーニングしたりなど、さまざまな経験を積んでいます。メンタル的にも非常にタフになっており、他国のトップ選手にも引けを取らない強さがあります。
また国際大会の数も増えてきていて、日本代表ではない人が参加するのも可能です。多くの日本人選手に活躍のチャンスがあるように感じていますね。
ー印象に残っている海外の国や選手はいますか?
同じ東アジア諸国でも、中国や韓国は日本に比べて国家を上げて勝ちにくるイメージがあります。
例えば韓国は選手やコーチだけではなく、審判団も交えてミーティングをするなど、チーム全体で勝利をつかもうとしていました。日本の場合は選手と審判団が関わりを持つことはほとんどありません。
というのも韓国では実際に選手として活躍した人が、セカンドキャリアのひとつとして国際審判になるのも珍しくないようです。
選手経験がある審判だからこそ、現役の韓国代表選手にアドバイスできるのでしょう。
また選手として心に残っているのはリンダンやリーチョンウェイですね。
彼らはロングラリーをこなした直後も、全く呼吸が乱れない。「これほど激しいラリーをしているのに、なんで?」って非常に驚きました。
またリンダンはジャッジに納得がいかないと、荒々しい態度になるんです。
審判しづらいなと感じる部分もあって、いろいろな意味で印象に残る選手ですね(笑)
ちなみに上田さんから教わったバドミントンのプレー動画をみるときのコツは以下なので、ぜひ参考にしてみてくださいね!
- 決定打に至るまでにどんなラリーが展開されたかを注目する
- 気になった部分のラリーをスローにしたり普通再生にしたりして繰り返しみる
- トップ選手のインターバルやラリー間の使い方に着目する
競技レベルに関わらずジュニアには同じ指導をする
ー現在のジュニア世代について感じることはなんですか?
より低年齢からバドミントンを始める子供たちが増えており、ジュニアバドミントン界の盛り上がりを感じています。早ければ未就学の段階で競技を開始するケースも少なくありません。
とある県では小学校低学年向けの大会も開催するなど、低年齢選手を強化・育成するのに力を入れています。
低年齢向け大会を全国規模で開催することも検討されており、今後一層ジュニアバドミントン界は活気を帯びていくでしょう。
また最近では、日本代表として活躍していた選手の子供が、私が所属しているジュニアクラブのメンバーになることもあります。身近なところで有望な二世選手が育っていくことも楽しみですね。
一方で競技開始年齢が早まっているのにつれて、中学校や高校からバドミントンを始める選手が世界の一線で戦ったり、日本のトップで活躍したりするのは少しハードになってきているかもしれません。
バドミントンは非常に繊細で難しいスポーツです。幼少期から始めた選手は多くの経験値を積んでおり、中学・高校始めの選手に比べて大きなアドバンテージを持っています。
とはいえさまざまな楽しみ方があるのも、バドミントンの醍醐味。
仮に全国大会に出場するのは難しい子も、大会の運営や審判を経験してみるなど、バドミントンのさまざまな魅力に触れて、自分なりの楽しみ方を見つけてほしいですね。
ー実力差のあるジュニア選手たちを指導するときに意識される点はありますか?
さまざまなレベルの選手たちを一度にコーチングするときも、指導法を変えることはありません。
以前に勤めていた学校のバドミントン部は、ジュニアナショナルに所属する子もいれば、競技を始めたばかりの生徒も在籍していましたが、全員が同じ練習をこなすように指導しました。
ジュニアナショナルの子が初心者を教えたり、初心者の子が同学年や後輩から物事を教わったりするのも貴重な経験になると思ったからです。
仲間内で共有した経験は深く記憶に残りますし、必ず今後の人生で役に立つ場面があるでしょう。
現在の活動は次世代の育成がメイン
ー現在はどんな活動に力を入れているのでしょうか?
すでに国際審判としての活動は引退しており、国内でのレフェリー活動も1年に2〜3回ほどです。
現在は後進の育成に重点を置いています。例えば今は日本バドミントン協会の審判部会に所属していて、講師という立場で今後レフェリーとして活躍する方々を指導しています。
また指導者の育成にも力を入れていますね。県内で公認コーチ資格の更新講習を手伝ったり、まだ資格を持っていない方向けにコーチ資格の重要性を説明したりしています。
審判資格については、大会の種類に応じて現役プレーヤーも取得することが義務化されています。
コーチ資格については、数年以内に試合のベンチに入るための必須資格になるかもしれません。どちらの資格も取得者は増加傾向にあるものの、十分とは言い切れない状況です。
今後、大会がスムーズに運営されるためにも、各資格の普及に努めています。
結果、日本全体でルールの理解度が上がり、指導力もアップすれば、日本バドミントンの競技力の向上につながると思っています。
【中編】まとめ
中編では上田敏之さんが感じた日本選手の印象や、ジュニア選手に対して抱く思いを語っていただきました。
後編では日本バドミントン界への期待や、現役でバドミントンをプレーする選手への思いなどを探っているので、ぜひご期待ください。
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