競技の世界はいつも華々しい瞬間ばかりではない。時に悩み、ときに挫折も…。
業界第一線での活躍経験のある方々にお話を伺い、人生をかけてバドミントンで挑戦しつづける姿勢・精神はもちろん、挫折や失敗から得たもの、バドミントン業界への問題提起や見解などについても語っていただき、バドミントンの普及発展と新しい未来への可能性を考察していく。
今回は、バドミントン元日本代表選手で現在はプロバドミントントレーナーとしてオンライン・オフラインで幅広い層にその技術と経験をつたえている藤本ホセマリ様にインタビューさせて頂きました。
トップの世界を経験してきたから伝えられること、また社会人プレーヤーへのアプローチに関してもおうかがいしてきました。
藤本 ホセマリ(ふじもと ほせまり)
1975年5月19日生まれ。港区立港中学校、埼玉県越谷南高等学校、中央大学を卒業後、日本ユニシス株式会社(現BIPROGY株式会社)に入社し日本ユニシスバドミントン部に所属。全日本社会人単優勝、全日本総合単3位などの実績を残し、2002年から05年は日本代表として活躍。
現役引退後はダイワ精工株式会社(現グローブライド株式会社)でバドミントン企画開発に関わる。その後独立しプロバドミントントレーナーとして、ジュニアからシニアまで幅広い年代の指導を行う。
現在でもシニアのトップ選手として多くの試合で優勝を飾っており、2017年には、ワールドマスターズ、世界シニア大会、全日本シニア大会の三冠を獲得した。
【後編】バドミントンは楽しむもの
ー社会人になってからバドミントンを再開するプレーヤーにアドバイスはありますか?
社会人になってからのバドミントンを充実させるには、楽しさを優先させることが大事ですね。
バドミントンを再開する目的は、健康診断の結果が悪くて運動不足を改善したいなど、いろいろあると思うんです。でも結局大切なのはバドミントンを楽しむこと。
勝ち負けにこだわりすぎても勝てなかったときにつまらなくなるので、「負けても楽しかったらOK」くらいに気楽にプレーすればいい。真剣に取り組んだ学生時代とはちがって、仲間とワイワイ楽しくやるバドミントンの魅力にも気づけます。
特に実業団選手は、企業の看板を背負って仕事の一環としてプレーしていた人もいると思います。肩の荷が重すぎてバドミントンを嫌いになってしまう人も多いんです。
そのような元実業団選手こそ、気楽な気持ちでバドミントンを再開して、楽しくプレーすることの魅力を知ってほしいですね。
ー加齢による体力の低下をハードルに感じるシニア選手も少なくありません。シニア選手が楽しくプレーするコツはありますか?
頭を使ってプレーすることです。
確かに若いうちはパワーや元気でプレーして勝てたかもしれません。では体力が落ちてなかなか勝てないときにどうすればいいかといえば、頭を使ったプレーにシフトすることが重要。
頭を使って配球や戦術を組み立てれば、意外に体力面を補えるし、攻略できる相手も多いんです。
頭脳面でプレーすることの奥深さに早く気づくことが、シニア選手がバドミントンを楽しむ秘訣です。
シニア世代を盛り上げていきたいという思いが強かった
ーホセマリさんは15年以上全日本シニアに出続けられていますが、精力的に参加された理由はありますか?
シニア世代を盛り上げていきたいという思いがあって出場し続けました。
私が初めて参加した頃の全日本シニアは、試合後のお疲れ様会をメインの目的にしている選手が大半だったんです。そのため試合に対して真剣になることに、あまり魅力がない大会というイメージがありました。元実業団選手が参加して優勝しても、つまらないと感じて以降は不出場となるパターンも少なくありませんでした。
勝ち負けに対して本気でこだわれるような大会にしたかったので、まず元実業団選手の私が大会に出続けて会場を盛り上げようと決めました。ほかにも引退した実業団選手に積極的に「参加してみようよ!」と声をかけ続けたんです。
このような取り組みを15年以上続けた結果、大会の雰囲気も変わって今では本気で勝ちを目指す選手も増えました。
もちろん全国各地で開催されるので旅行的な感覚で参加することや、旧友と再会できる場として活用することもおすすめです。さらに今では真剣にバドミントンをプレーできたり、過去に憧れたトップ選手のプレーも見られたりもできる。
全日本シニアはさまざまな魅力が詰まった素晴らしい大会です。出場を目指す選手も増えているので、シニア界全体の盛り上がりを感じています。
ーホセマリさんの取り組みが結果として表れているんですね!
はい。全日本シニアに興味を持ってくれる人も増えているようで、先日も20代後半の選手から「早く全日本シニアに出てみたい!」と言ってもらえたんです。
幅広い世代の選手から目標の大会として見据えられていることに嬉しくなりました。
「バドミントン=食えない」というイメージを払拭したい
ーセカンドキャリアとしてプロバドミントントレーナーの道を選択する際、壁になっていたことはありますか?
私がバドミントントレーナーとして活動し始めた頃やそれ以前は、当然のように「バドミントンでは飯を食っていけない」というイメージがありました。テニスやゴルフなどでは多くのスクールが運営されていて、レッスンの先生として生計を立てている人も大勢います。でもバドミントンはそのようなビジネスモデルがほとんどなかった。
そもそもバドミントンはお金を払って教わるものじゃないという感覚が非常に強かったんです。「ラケットショップのスタッフが営業のついでに教えてくれるでしょ」というような。
けれどもバドミントンは非常に難しいスポーツです。独学で上達するのにはハードなので、お金を払ってでもコーチングを受けたい人は必ずいると感じていました。ましてやショップの店員さんは指導が本業ではありません。
コーチングの技術を高めて自分の価値を高められれば、バドミントントレーナーを仕事にして生活できると思ったんです。
また、「バドミントン=食えない」というイメージを払拭して、バドミントンを生業にするビジネスモデルを後輩に示したかった。私がプロバドミントレーナーを10年以上続けられていることもあってなのか、バドミントンのコーチングを始める元トップ選手も増えている気がします。
ときにはバドミントンから離れるのも大切
ー最後に今頑張っているバドミントンプレーヤーへのメッセージを
バドミントンは楽しくやることがもっとも重要です。
楽しむことでモチベーションの維持にもつながります。
もしもやる気が出ないなら、思い切ってバドミントンを休んでみるのもひとつの手ですよ。
一度距離をとってみることでバドミントンの魅力を再発見でき、やる気も復活してくるはずです。
ただし実業団選手や全国大会を目指す学生は、モチベーションに左右されずに練習できる根気強さが求められるので、休んでいいのは趣味としてバドをプレーしている人。
またバドミントンは長く競技から離れてしまうと、シャトルやラケットの感覚を取り戻すのが非常に難しいので注意が必要です。適度に休息をとりながら、ほどよい距離感でバドミントンを楽しみ続けてほしいですね。
【後編】まとめ
後編では藤本ホセマリさんにシニア界に対する熱い思いや、バドミントンを頑張っているプレーヤーへのメッセージをお聞きしました。
実業団選手時代は全日本社会人を2度制覇し、アジア大会にも出場され、輝かしい成績を残してきたホセマリさん。
現在は講習会の開催やSNSでの発信などに力を入れ、プロバドミントントレーナーとして、さまざまな場面で日本バドミントン界を盛り上げてくれています。
これからもバドミントンの魅力を広く伝えてくれることに期待です。
藤本ホセマリさんの各種書籍が好評発売中です。人気の講習会はラインの公式アカウントから申し込みできます。
また2024年5月からオンラインサロンもスタート。「一緒に強くなる」をテーマに交流会や勉強会を実施されるそうなので、気になる方は公式サイトにてご確認ください。
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